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Sugary 1-5


朝からすこぶる機嫌が悪い。
甘ったるい香りのする女性専用車両で、私は悶々としていた。
愛用のIpodから聴こえるスローテンポの曲が、恋の歌を奏でている。


音域の広い本格派女性シンガーが歌う、甘くて切ないその曲は、
最近お気に入りになったはずだったのに…



今はその甘さがうざったるいだけ。
全部、全部。アイツのせいだ―――。






――結局。


最寄駅のホームで高瀬を撒いて(正確に言うと、私が女性専用車両に乗った為)
私は高瀬と別れた。



なんでわざわざ好き好んで高瀬と一緒に出勤しなくてはないらないのか?
たかがお隣さんごときで。馬鹿にするのもいい加減にして欲しい。


朝会う度に
「一緒に行こうぜ」と堂々と誘う高瀬。

(頭の中おかしいんじゃないの?)

と、私は心の内で奴のことを罵りながらIpodのボタンを連打し、違う曲を選んだ。
アップテンポの、ロック。


先ほどの曲とは打って変わって軽快なメロディ。
英語だから、何言ってるか分からない。それがちょうどいい。聞き流しできるから。


よし。今日も頑張らなくちゃ。
気持ちを切り替えるようにかぶりを振り、私は電車を降りた。







木曜の朝は、メールの量がやたらと多い。

本社からの重要事項や、お客さんからの問い合わせ、すぐにゴミ箱行きのたわいないものまで。


営業課は基本水曜が休みなもんだから、昨日の分が溜まっている。
ひとつひとつチェックして捌(さば)く作業だけで、軽く30分はかかる。
9時半すぎ、漸く一息ついた頃、コト、とデスクにコーヒーが置かれた。


「あ、ありがとうございます」

「……美奈ちゃんさ…」


コーヒーを持ってきてくれた仲野さんに
顔を上げてお礼を言ったところ、名前を呼ばれ、まじまじと顔を見つめられた。


「…仲野さん?どうされました?」

「――目の下の隈、目立ってるよ。もしかして昨日も寝られなかった?」

「!!」


他の人には聞こえないように耳元で囁かれた。
そういえば――、今日朝寝坊してコンシーラー塗るの忘れてた――!!


確か今年で35歳になる事務の仲野さんは、大きくなったお腹をさすりながら
心配そうな表情で微笑んだ。
彼女のお腹には8ヶ月の赤ちゃんがいる。


「私、ちょっとトイレ行ってきます…」

「うん。いっといで」


私は鞄の中から化粧ポーチを取り出し、仲野さんにお辞儀をした後、トイレに駆け込んだ。






(これでよし…、と)


数分後、私の目の下の隈は見事に消えてなくなっていた。



営業として、疲れた顔をお客さんにみせる訳にはいかない。
隈があるのとないのとで、表情がまるで違うのを、私は分かっていた。
やっぱり寝坊しちゃだめだな、と軽く反省して、
化粧室から出て、廊下を歩く。




その時、ちょうど営業課のフロアーから高瀬が出てきた。







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