さらさらと流れる鴨川の水の音。
私と高瀬の息遣い。
たった一つのキスを交わした。
その瞬間、私達のいる場所は、全ての喧騒をシャットアウトした甘い空間になった―――。
*
唇と唇が掠めて。すぐさま離れていく。
だけど、次の瞬間、私の背中にまわされた高瀬の手に力が入り、ピンヒールを履いていた私はバランスを崩した。
否応なく高瀬の体に密着する。
「高…瀬……、」
鴨川の遊歩道には細かな砂利が敷かれていて。
その砂利を踏む音が響く。
「力抜けって」
そういって、高瀬がくつくつと笑った。
その顔は心底愉しそうで。意地悪だった。
そんなこと言ったって。
どうやって力を抜けばいいかも分からないぐらい、私―――、
――その顔を見ていると、私だけが動揺して、私だけがこの状況にドキドキしてる気がして。
「悠木…」
私、とうとうおかしくなったんじゃないかな。
名前を呼ばれただけなのに、全身が痺れた。
吐息が頬にかかり、高瀬の熱い瞳が私を凝視する。
その顔がムカつくぐらい大人の色気を醸し出していて、くらくらした。
「なんつーか…今、キスしたら止まらなくなりそーだわ」
言ってるそばから、瞬く間にキスが落ちてきて。
掠めた息を通り越して、唇が重なる。
「ん――っ…、」
くぐもった声までも食らい尽くすような、そんな情熱的なキスだった。
隙間から入ってきた舌に残る、僅かなアルコールの香り。
舌が絡まった瞬間、高瀬が顔の角度を変えて、私の口内の奥深くを貪る。
息継ぎの合間に漏れる、高瀬の甘い吐息までもが、今の私にとってはまるで媚薬のようだった。
ざらざらした舌の感触がやけにリアルで。高瀬のそれはとても熱かった。
まるで、本当に熱があるんじゃないかって思うぐらい。
顎にかかった手はいつのまにか首筋に下り、すーっ、と。指先で鎖骨を撫でられた。
「あっ……」
自分の上擦った声にびっくりする。
些細な手の動きさえ、敏感に感じられるぐらい、私は高瀬に酔っていた。
駄目だ――…、何も、考えられなくなる。
高瀬のこと以外、何も。
「もっ…、高……っ、もう、…無理ッ…!」
どのぐらいキスをしていたのか、おぼろげな思考のせいで、時間の感覚さえ分からなかった。
余りにも激しくて、呼吸さえままならなくて、私はもがいた。
なのに、この男のキスは益々荒くなって。
呼吸さえも上手くさせてもらえない。
高瀬の胸をドンドンと叩いて、主張すると。
「――分かったよ、いったん止めてやるから、その代わり――――」
「っ……!」
漸く離れてくれた思えば、高瀬は私の耳元に顔を寄せた。
耳元から私の脳内に吹き込むようなその言葉。
甘い拘束をするその響きに、心臓が跳ねる。
「うんって言って。早く」
たまらず私はコクンと頷いていた。
勝ち誇ったような高瀬の顔。ニッコリと笑われて、そのまま右手をとられ、握られた。
一歩前を歩き出す高瀬につられて、私も足を踏み出す。
ここからだとあと数分もかからない。
毎日帰っていたあの場所。
鴨川にかかる橋のその先に、私と高瀬のマンションの灯りが目に付いた。
拒否権は元からなかったのかもしれない。
――今日、俺の部屋に帰ることになるけど、いいよな?
更新滞ってすみません!漸くパソコンと向き合う時間がとれました。
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