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Sugary 1-7

その日、私は無理やり仕事を切り上げて、定時に会社を出た。
まだ日が暮れて間もない、ぼんやりと明るさが残る街並み。


その明るさを会社帰りに見るなんて、物凄く稀だと思う。


信号待ち。
ふと見上げた先に、1本の大きな桜があった。
満開の季節をとうに過ぎた桜は、新緑が繁り、風に吹かれてさわさわと靡いた。
季節の変化を久しぶりに感じた気がした。


―――つーかオンオフの切り替えできてねーだろ、お前。


その時、不意にその言葉が頭に蘇ってきて、私は危うくこの場で発狂しそうになった。


仕事人間で、何が悪いっていうの?
人のこと全部知ったような口利かないで…!!!





「お兄さんっ、呉春ちょうだい。あと焼き鳥皮とせせり一本ずつね、どっちも塩で」

「あいよ!!」


とにかく飲もうと思った。
向かった先は京都駅の近くの居酒屋。
カウンターに促されて、すぐさまジャケットを脱いだ。



親友の愛子と何度と無く来てるから顔馴染みだ。
日本酒と焼酎の数が半端なく、それに合う宮崎産らしい焼き鳥は絶品だと思う。
店の作りの雰囲気も良く、お気に入りの店の一つだった。



「お待たせしました!」と威勢の良い掛け声と共に、目の前にグラスが、コトと置かれる。
お兄さんにありがと、と言った後、日本酒をぐいっと飲むと、独特の澄んだ香りが口の中に広がった。


「っていうか、なんでこんなにイライラしてるんだろ」


誰に言うでもなく、ひとり呟いた。
アイツの顔が簡単に浮かぶのが、なんだか物凄く悔しい。ムカつく。


オンとオフ…オンとオフ…
酔いも手伝ってかそればかりが頭の中でぐるぐると廻りはじめる。


(くそう…あいつホント絞め殺してやりたい)


なんでこんなに腹を立ててるかって、アイツの言うとおりだったから。
頭のど真ん中をストレートに抉られた気分だ。
ここのところ頭の中の9割以上は仕事のことだけだったから。それを高瀬は気付いていた。


29歳にもなると、まわりは結婚やら、出産やらで人生の転機が訪れて。
会社の同期でもこうやって総合職かつ独身でバリバリ働いている女性は少なくなってしまった。


好きな男の子供を産んで、幸せそうに微笑む友人を見て、
私もぼんやりとその生活に憧れた時期もあったけれど。
なんだか今更な気がしていた。


――ともかく、私には、働く理由があった。


(もう、いい…私は間違ってない。今のままでいいんだから)


そう考えを落ち着かせて、残ったグラスのお酒を一気に飲み干したその時、



「――もしかして…美奈子か?」



聞いたことのある声が頭から落ちてきた。



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