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Sugary 2-4

「悠木が泣くとこ見るの……2度目だよな」

「―――!!」

「なんつーか、悠木って、強いようで、弱いとこもあるよな。それって、知ってるの――、俺だけ…?」


まるで何かを慈しむ様な(何を慈しむというのだ)、微妙に柔らかい声色で、そんなことを言い出すから。
勢い余って口に含んでいたぺリエを噴き出しそうになり、慌てて飲み込んだ。
案の定、気管に詰まった水分のせいで、思いっきりむせてしまった。


「ゴホッゴホッ…!!」

「おい、大丈夫かよ」


失笑しながら、高瀬が自然な動作で私の背中に触れた。
ジャケットから伝わる、高瀬の大きな手が、ひどく優しくて。
咳き込む私の背中を何度も撫でながら、高瀬が喉の奥で笑う。


「…もう、大丈夫だからっ…――」


(――だから、簡単に触れないで)


自分の胸を両手で抑えながら、弾んだ息を整えて。
そんな意味合いを含んだ言葉を、隣にいる高瀬に投げかけた。
つい数分前までは、高瀬の体温が心地よいと思っていたはずだったのに。
今はただ、近くにいること自体が、気まずくて。むずむずして。
意味の分からないことを言い出す高瀬に、心がざわついた。



(俺だけ?って何?知ってるの、俺だけ?って何なのよ―――?)




「なに焦ってんだよ。咳き込む程のことか?」

「…っ当たり前でしょ!?変なこと言い出さないでよ」

「どこが変なんだよ。俺、ビールは飲んだけど酔っ払ってなんかねーぞ?」




「どこが変なのか言ってみ?」と続けて、至極真面目な表情をした顔をぐいっと近づけられた。
ぎしりと、ソファの音が鳴って、高瀬が体ごとこちらに寄ってくる。
私は近づく高瀬に向かって咄嗟にこう叫んでいた。


「これ以上近づかないで!!変態っ!」

「……へぇ?」

「な、何よ……?!」


高瀬が、含み笑いをして、尚も私を見つめてきた。
何てイヤラシイ顔をするのだろう、この変態男は。と心の中で蔑んだ。
昔より男らしくなった顔つきであるとか。第二ボタンまではだけたワイシャツだとか。
そこから見える鎖骨のラインだとか。いちいち生々しくて。
イライラしてしまう。



「なんか悠木って、猫っぽいよな」

「――は?」

「いやさ、俺の実家に猫飼ってんだけどさ。そいつ、いっつも俺が抱っこしようとしたらすげぇ嫌がるんだよ。
――けど、たまに甘えた声出して俺のベッドにもぐりこんでくる時があって」

「……何が言いたいの?」

「まぁ。ツンツンしてるいつもの悠木も。……さっきの泣いてる悠木も。うちの猫にそっくりで、可愛いとこもあるってことだな」

「……っ!帰る!」



私は立ち上がり、そう叫んでいた。
本当にこの男は……!!
急に何を言い出すかと思えば、人を馬鹿にするようなことを平気で吐き出す。
いつもこちらが予想だにしないことを突拍子もなく口にするから、高瀬といると正気でいられないのだ。
鞄を引っつかみ、玄関に走った。



「悠木、」

「……何よ」



ヒールを履いて、ドアノブに手をかけたとき。後ろから声をかけられた。
顔を見たくなくて、振り向かずに小さな声で返事をする。




「もう。“今日”で。泣いた原因は、全部忘れろ。さっき思いっきり泣いた分で、十分だよ。
だから、ちゃんと寝ろよ。」



いちいち言うことがムカつくけど。
癪に障るけど。それでも、その言葉は、深いところまで胸にストンと落ちてきて。しっくりと馴染んでいった。
私はこんな風に優しく声を掛けてもらう行為に慣れていない。
だけど―――。
高瀬と馬鹿なやり取りをしたおかげで、私は利樹のことだけに溺れなくて済んだのかもしれない。と後になって思った。きっと高瀬がいなければ、私はずっと過去に縛られたままだった。




「おやすみ」

「―――……ありがとう、おやすみ」



精一杯、なけなしの言葉を返して。
チラリとすぐ真横にあったそれを見てから、ドアノブをまわした。
靴箱の上のアナログの置時計が、ちょうど12時を差していて。




“今日”という日はいつの間にか過去になっていた。



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