「俺…、も、限界。悠木が好きだわ」
それは、いつもの意地悪さも、余裕もないような物言いだった。
苦しげに吐き出す息が私の耳元に落ちて。
まるで魔法にかかったように強張った力が抜けていく。
私の心臓、このままはちきれちゃうんじゃないの。
自分の呼吸が荒い。高瀬もだ。
それなのに、まるで逃げ道を断つように、高瀬が、私を抱き締める力を更に強めた。
「痛い、よ……高瀬…」
そうは言っておきながら、もっと拘束して欲しい、なんて。
心が強くつよくそう願っているのに気付いて、恥ずかしくて死にそうになる。
馬鹿か私は。
利樹と別れて、そんな感情、必要ないと切り捨ててきたのに。
ひとりで生きていくと決めたのに――。
完全に負けだ。高瀬に負けた。
心も体も高瀬で占められて、胸が痛い。苦しい。抵抗できない。
それがこの男のせいだなんて、認めたくないのに。
お互いの鼓動と呼吸が重なるのが、心地よくて、心がジンジンと満たされていく。
こんな感覚、思い出せないぐらい久しぶりで。
……いや、思い出せないんじゃなくて、もしかしたら人生ではじめてかもしれない。
あぁ…、私は、認めるしかないのか……、と思うと、何故だか無性に泣きたくなった。
ゆっくりと弱まる高瀬の腕。
その中から意を決して見上げると、高瀬と視線が絡まる。
艶のある瞳を私だけに向けている。
それは、最高潮にドキドキした瞬間だった。
「キスしたい。いい?」
「……っ」
いきなりの展開に私は返す答えが見つからなかった。
少しずつ近づく距離。
顎に手をかけられ、グイッと上を向かされる。
高瀬が私の目から視線を外してあと数センチで触れる距離にある私の唇を見た。
強気な瞳に犯されるような感覚がして、鳥肌が立った。
「嫌なら今のうちに嫌って言え」
高瀬はいつもの高圧的な言い方をした。
こんな時に限って鴨川の水のせせらぎの音がやけに耳に届いて、思考に邪魔をする。
私と高瀬の間に、春の夜風が強く吹いて、それが自分を後押ししているように思えた。
「……っ、…嫌…じゃない…」
それは、もしかしたら、高瀬に初めて吐いた、心からの台詞だったかもしれない。
ずっと嫌いで、コンプレックスを抱いてきた男で。
高校の同級生。今は同期でライバルで。
そして、私の“お隣さん”。
“嫌い”って思っていた以上に、この男が“好き”だった―――。
少し乾いた高瀬の唇が、私の唇に重なった瞬間だった。
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